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序言


六朝時代の詩人、庾信の「鏡賦」には次のような表現があります。

臨水則池中月出   水に臨めば、則ち池中に月出で
照日則壁上菱生   日に照らせば、則ち壁上に菱生ず

ここで庾信は鏡の反射光のなかに「菱」が浮かび上がると詠んでいます。いわゆる魔鏡現象と思われますが、さらに庾信は鏡の反射光を「菱花」と表現しました。「王昭君」と題した楽府に、

鏡失菱花影   鏡は菱花の影を失ひ
釵除却月梁   釵は却月の梁を除く

とあります。

庾信以後も「菱花」は鏡の反射光を表す言葉として好まれたらしく、宋代には鏡そのものを意味するようになっていました。陸佃の編纂した『埤雅』巻十五に、

鏡謂之蔆華(菱花)   鏡、之を蔆華(菱花)と謂ふ

と記されています。

唐代を中心とした銅鏡研究サイトを立ち上げるにあたり、この「菱花」をもって菱花亭と名づけました。


平成二十一年己丑卯月
亭主 拝




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